【書評】信玄の戦争 孫子には早さが足りなかった

   

武田信玄は戦国時代の人気武将です。私も信玄のことは結構知っているつもりでしたが、今回の本は信玄を孫子の側面から説明する本です。

信玄のことを更に知りたい人なら読んでもらいたいです。

要約 武田信玄の行動原理を孫子に求めることで従来の定説とは違った説を展開する。信玄の上洛が遅かったこと、川中島の戦いで負けたこと、外交の慎重さを孫子の側から見つめるである。

 

何が書いてあったか?

信玄が孫子をよく読んでいたのは知っていました。有名な風林火山も孫子が元ネタです。しかし、春秋戦国時代の本のことをそんなに固執するわけないだろと思ってました。

 

信玄としては孫子は参考程度にレベルなのかな~と漠然と考えていました。読むまでは・・・。ですが、武田信玄の特徴である作戦の多くは孫子の影響を大変受けていたと感じました。

信玄と言えば、外交で敵を孤立させる。敵を調略する。戦だけでなく謀略、政治に長けています。それは孫子による負けない戦略に基づいての作戦でした。

敵をジワリ、ジワリと弱らせて負かして領土を獲得する。国力が乏しく、南には駿河の今川、相模の北条が控えているので大敗してしまったら、好機とばかりに攻め込んでくるかもしれません。(義元が敗死した後、今川と同じ末路の可能性だってありえます。)

不敗を徹敵しての領土拡張はまさに甲斐を本拠として武田信玄にとっての大きな戦略でした。孫子は春秋戦国時代でいかに生き残りかを重視しているので信玄もそこを参考にしつつ、自分流にカスタマイズしたのでしょう。

しかし、不敗をベストとする孫子には大きな欠点がありました。スピードが足りないのです。

「孫子」型の軍事行動の素早さの陰には、膨大な時間をかけた準備が潜んでいる。軍事行動を最小限にするために謀を重視し、損失を最小に留めるためには当然代償が必要になってくる。(信玄の戦争P.238ページより引用)

言われてみれば、信玄は1572年の上洛もかなり遅いです。上洛だけでなく西上野、駿河の制圧にも多くの時間を費やしています。信玄は本当に確実、慎重を大事にしすぎたのかしれませんね。

また、川中島の戦いは信玄の負けであった本書は述べています。謙信は信玄に対して自身に対する恐怖を与えました。その証拠に信玄は謙信と直接対峙することを避けており、以後越後への野心は無くなります。

確かに信玄は北信濃の領土を獲得しましたが、川中島の戦いでは信繁、両角、自身の負傷に加えて謙信を倒すことはできませんでした。信玄が川中島で大きな痛手を味わいました。

しかし、謙信としても信濃から庇護を求めて村上義清などの領土を回復させることには失敗しました。謙信が信玄に対して完全勝利したとは私は思えません。

どんな人におすすめか?

従来の定説から違った説を展開しているので、信玄についてある程度の知識が必要です。武田信玄の小説で大河ドラマの原作となった新田次郎さんの本や、柴辻俊六さん、平山優さんの本を読んでから本書を読むことをお勧めします。

 

戦国時代について全然わからない人が読んでもあまり効果がないでしょう。孫子に関する知識はほとんどなくても私は読めました。

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読む時に注意すること

孫子は軍事行動を避けるために謀を優先することで、犠牲を最小限に留める。しかしそのデメリットとしてスピードに欠ける。

 

信玄はその孫子の行動に規制されていることを意識してもらうと、本書は読みやすくなるでしょう。文章は読みやすく、問題なく読めます。

従来の定説を覆すと書いてある本は自分の主張を正当化するために、文句ばかり書いてあることがあります。本書でも比較対象として定説をとりあげていますが、作者を個人攻撃していないので私的には気になりませんでした。

もっとも心に残った文章

 

信玄の一生は、深く策謀をめぐらし、慎重に計算、十分に準備し、準備が到来するまで待つ、多く進むことはあっても少しも退くことはない、の連続であった。(信玄の戦争、P・216ページより)

戦国大名武田信玄を表し、本書を読んで一番作者が主張したかった「孫子=確実だけども、遅い」がわかる一説だと思いました。

 

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